基礎講義の本

基礎講義ではこの本を読んでいます。

Critical Theory Since 1965

Critical Theory Since 1965

タイトルの通り、1965年以降の批評理論について、主な批評家の論考を原著に即して読みましょうという趣旨の本です。イントロが面白いんですが、1965年というのは、アメリカの批評シーンが劇的に変わった十年間のちょうど中間地点ということで選ばれています。特に60年代の後半に、大陸の構造主義・ポスト構造主義思想がアメリカに輸入され、アメリカの批評・理論のシーンは見違えるように変わるわけです。もともとアメリカにはBenjamin Lee Whorfのような構造主義言語学者もいたので、アメリカ版構造主義のルーツのようなものもあったのですが、それらは1965年までには既に下火になっていたそうです。

面白いのは、ヨーロッパでは50年代から十年以上をかけて構造主義が発達したのに対し、アメリカではほとんど構造主義の時期がなかったという指摘です。というのも、構造主義思想の輸入がはじまって間もない1966年に早くも、あるフランスの若い哲学者がジョンズ・ホプキンス大学で革新的な講演を行って、構造主義の誤謬を明らかにしてしまったからなのだそうです。この人がジャック・デリダです。というわけで、アメリカではほとんど構造主義が広まる時期をもたずに、新批評→ポスト構造主義ないし脱構築へと移行が起きたのだそうな。

 

↑の出版は1986年と、もう26年も昔のことです。それが今でも教科書として使われるということ自体、色々なことを示唆している気もします。それから、2012の現在にこういうアンソロジーを組むことを想像したときに、この本に批評家として名前が「挙がっていない」人たちのことを考えると、この20年あまりに理論が辿ってきた変化がなんとなく透けて見えるような気もしました。